さすらいの青春(140)
—————————【140】———————————————
Ce fut*¹ la même explication*² que*³ nous donnâmes*⁴
aux gens du bourg*⁵. Quant *⁶ à la mère du fugitif*⁷,
il*⁸ fut décidé qu'on attendrait*⁹ pour lui écrire. Et
nous gardâmes*¹⁰ pour nous seuls notre inquiétude*¹¹ qui
dura*¹² trois grands jours. Je vois*¹³ encore mon père
rentrant de ferme vers onze heures, sa moustache*¹⁴
mouillée*¹⁵ par la nuit, discutant avec Millie d'une
voix très basse, angoissée et colère...
——————————(訳)————————————————
私たちが町の人たちにしたのも同じ説明でした.この逃亡者
の母親に対しては、手紙を書くことをちょっと待ってみるこ
とが決められた.そして私たちは自分たちだけで不安を抱えた
まま丸三日を過ごしたのでした.私は今も父が夜の11時ごろに
夜露でひげを濡らしながら農園から帰って来て、低い、心配と
怒り交じりの声でミリーと話し合っているのを思い浮かべるの
だ.
——————————⦅語句》————————————————
(スムーズな読解をしていただくため、既習単語も
どんどんピックアップしました)
*1) fut:(単純過去3単) <être; 現在形に置き換えると:
C'est la même explication que nous donnons ~ となる.
「これは私たちがする同じ弁明だ」
ただし、もっとすっきりする仏文解釈としては、ここは
強調構文「c'est ~ que …」と見て、「私たちが(町の人に)
するのは同じ説明だ.これを過去形に戻すと本文訳になる.
Ce fut la même explication que nous donnâmes aux gens
du bourg. / 私たちが町の人たちにしたのも、これと
同じ説明だった.
もっとわかりやすくいうと、c'est (ce fut)とque を無視して
la même explication nous donnâmes ~ / 同じ説明を(町の人に
も)したのでした.
*2) explication:(f) 説明、弁明、弁解;√expliquer (他) 説明する
(cf:英語=explanation)
*3) que: 関係代名詞; 先行詞はexplication
*4) donnâmes:[ドナーム](単純過去1複) <donner (他) 与える、
ここでは熟語「donner une explication(説明する)」の一部
として用いられている.
*5) bourg:(m) (市の立つ)町、市場町;
ville とvillage の中間的な地域社会
*6) quant à ~:[発音注意t を発音します:カンタ] (前置詞句)
~に関しては、 ...はどうかというと
Quant à la conclusion de la négociation, tout le monde était satisfait.
交渉の結論に関してはみなが満足した.
Quant à moi, je suis d'accord. / 私としては賛成です.
Quant à finir ce travail avant ce soir, c'est impossible.
この仕事を今晩までに終えることは不可能だ.
*7) fugitif(ve):(形) ❶逃げた、逃走中の; ❷つかの間の、はかない
(名) 逃亡者
*8) il:(形式主語) あとに意味上の主語がくる.
il est + A (形容詞) + de [que] B
il est difficile de traduire ce texte. / このテキストを訳すのは難しい.
il est certain que ce projet réussira. / この計画が成功するのは確実だ.
ここでは受身、単純過去形になっています.
il fut décidé qu'on attendrait pour lui écrire.
私たちが彼女に手紙を書くのは待ってみることになった.
(様子を見ることとなった)
*9) attendre:「待つ」が基本的な意味ですが、文脈によって「猶予する」
「引き延ばす」という意味になることがあります.ここでは
「見合す」「様子見待ちする」.
*10) gardâmes:(単純過去1複) <garder (他) 保つ、持ち続ける
本文での直接目的補語はnotre inquiétude「我々の不安」
文法の時間に習ったS + V + OD は実際の文章では、いろいろ
挿入句に阻まれて、見つけにくくなっています.ここでも
pour nous seuls (私たちだけで)が garder の目的語を見つけにくく
しています.文型はいつも型通りではなく、
S + V + 邪魔物 + OD というケースが多いです.
邪魔物にうち勝って下さいね.
*11) inquiétude:(f) 不安、心配、懸念
*12) dura:(単純過去3単) <durer (自) 続く, 長く続く
*13) vois:(直説法現在1単) <voir (他)見る.
ここは物語現在ではなく、本来の現在形.つづくencor が
「今もなお…」と、この文が語り手の「現在」を表示して
います.
「voir + A(直接目的補語) + B(現在分詞)」で
AがBしているのを見る.
ただしここでは過去の回想なので「思い浮かべる」
と訳してもいいと思います.念のため辞書を引いて
みたら、「voir:(心の中で)見る、想像する」とありまし
たので大丈夫です.
*14) moustache:(f) 口ひげ、(頬と顎のひげは barbe )
*15) mouillée:(形、過去分詞、女単) 湿った、濡れた
<mouiller (他) 湿らせる、濡らす
angoissé(e):(形) 苦しんだ、悩んだ、不安に満ちた
<angoisser (他) ひどく心配させる、苦しめる、悩ませる
名詞形は:angoisse (f) 不安、恐怖、苦悶
colère:(f) 怒り
—————————≪文法≫—————————————————
*14) sa moustache:長い文の中にポツンと1軒家のように存在して
います.その長い文がこれ.
Je vois encore mon père rentrant de ferme vers onze heures,
sa moustache mouillée par la nuit, discutant avec Millie d'une
voix très basse, angoissée et colère...
文の骨格は:「主語 + voir + voir の目的補語 + 現在分詞」
ですがsa moustache mouillée par la nuit だけがこの骨格から
はみ出ています.意味は「ひげを夜露に濡らして」という
挿入句になるのですが、なぜ名詞がそういう意味をもてる
のか、どこにも動詞が見当たらないではいか? なるほど.
しかしこれはもともとは現在分詞があったと考えます.
avec sa moustache étant par la nuit / 夜風にひげを湿らせて
これはmon père rentrant 、父が帰るときに、父のひげが
ということで、étant の主語は父ではなくひげだからavec
がったものと考えます.